がたぴし翁
春日線香

がたぴし翁が住んでいるという
ここまで来たのだから挨拶をしていこうと
靴を脱いで上がっていったら
ちゃんと列に並んでくれと怒られてしまい
肩の間でしゅんとしている
それで長いこと待って
きんぴかの仏像と立ち話などしていると
あんたは親戚の者か と追求の手が及び
たまらず泳がせた視線の先に
庭には二羽にわとりがいる(その目玉がぎろり)
驚いて逃げ出すしかなく
いったい がたぴし翁なんているのか
掛け軸の裏にも座布団の裏にもいない
影も形も残っていない
お手伝いさんを呼び止めて
どこですか と尋ねてみると
それはわたくしの曽祖父のことです
とうの昔に亡くなったのですよ
初代がたぴし翁を継ぐ者はおらず
残念ですがとても残念な次第です
せっかくですからこのがたぴしうるさい仏壇に
焼香でもいかが と香炉を勧める
なるほど そうだったのか
そういう次第になってしまったのか
「百年はもう来ていたんだな」


自由詩 がたぴし翁 Copyright 春日線香 2014-07-29 12:48:37
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