餓え
為平 澪

清水を昇る魚の群れに ひどく、眩暈がする

私は今日も 獣の肉を食べる
鳥の、豚の、牛の、或いは、ナニか、の。

理不尽にして一瞬に殺されたモノたちの
肉を焼き 血を焦がし
日めくりカレンダーが 時を告げる頃
私のお腹はぶよぶよに 膨れ上がり
トイレで口から キレイなものを吐く

カレンダーの黒が赤を通過して黒になる
私は 食べ続ける
ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中に 自分を投げ込むように
生肉を茹で上げ 血を染み込ませた その汁を啜る

そしてカレンダーが再び赤に点滅すると
私は洗面所で 水と共に口から出る
キレイなものを 流してしまう

酷い吐き気と共に 眩暈の淵から涙が溢れ
そこから沢山の鮎が 逃げてゆく
 (あの魚が食べたいのに・・・。)

殺されたモノたちの怒りに祟られた 私の腹からは
茫漠とした砂漠に 打ち捨てられた
白目を向いた魚しか 出てこなかった

ビリビリと音を立て 破り捨てる
黒と赤の数字の狭間の青の中を
春の記号に乗って
一匹の大魚が 悠々と目の前を昇ってゆく

私は世界一豊かな国にいて
灼熱直下のコインロッカーの中で
大きな腹を抱えては 今日も餓死を強いられる



自由詩 餓え Copyright 為平 澪 2014-07-25 18:01:37
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