ひとつ 湛える Ⅲ
木立 悟





川の終わりの
影ふらす樹に
最初の光が
瀧のようにそそぐ


ふかみどりの霧が谷を呑む
雨粒が土を齧る音
煙の十字
かすかに かすかに名を呼ぶもの


空と径が作る鏡の容れ物
踏むたびに持ち上がる足跡が
未練を狼に狼にする


朝も昼も 夜の家
夜にはさらに 夜の家
窓からも 壁からもこぼれる錆は
すべてすべて 白の家


残像と残響のはざまを馳せ
暗さに紋ひとつ残さない
潮のにおいの
不機嫌な鳥たち


何も生まぬ龍のかたまり
永く歪んだ雨曇たち
水没した街の上の青
動かぬ風と動かぬ青


咆哮が咆哮を招き導き
岸壁にこだまし 浪へ落ちる
かつて満ちていたものは還り
いつかふたたびやって来る


映し出された在るべき姿に
痛みを持つものは皆あらがってゆく
川の終わり ふかみどり
はじまりも また むらさきも
鏡の内に降る雨を視る





















自由詩 ひとつ 湛える Ⅲ Copyright 木立 悟 2014-07-23 23:51:00
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