PMT
ねなぎ

確定されないと
思った

誰とも話をしなくなって
一週間が過ぎ
学校に行くのをやめ
電話も捨ててしまった
人とすれ違い
社会と関わることなく
存在が陽子よりも
小さくなり
消えていくように
思っていた夜に
空を見上げた

ふと朝方に
新井薬師を
とび出していた
焦るように
電車に乗り
波動方程式を
頭の中で展開しながら
先頭車両まで
歩いてみる

新宿の人ごみの中
マクスウェルとエントロピーを
関連づけて
状態を出そうとするが
西口の演説の声で
確率が出せなくなって
偏微分を解くのをやめる

ただ時間と波を考える
軌道関数の軌跡と
量子数とバウリの排他原理
孤立電子とクーロン力
崩壊は何時から
始まっているのだろう
電車に揺られて
窓の外の時間と
移動時間の差が相対して
ゆっくりと流れて
いるように思う

厚木あたりで
もう気づいていたが
無理矢理押し込めて
ミクロをそのまま
マクロに展開して
小田原で降りる頃には
不確定だと
思い込んでいた

太陽と共に時間が
過ぎていく事を
肌で感じながら
熱海を過ぎ
降りそそぐ
熱が空気に
及ぼす仕事を
定圧で考えても
富士を見ながら
重力すらも磁場も
一定にはならないと
改めて
海を見ながら
電車のリズムで
揺られていた

一定に振動が
波のようになり
式の上では
自分も波なのだと感じ
観測されなくては
質量さえ消えてしまいそうで
窓に映る
自分を眺めて
浜名湖あたりで
増幅される真空中の光を
電界に変えるように
気づかない不利をして
名古屋に着いたら
目を反らせなくなっていた

シュレディンガーの言うように
猫が家路を帰れなく
なってしまうように
何もかもを
すり抜けていく
特異点と次元
転移する空間の
二重微分を
マトリクスで解く事を
恐れて
時空移動のエネルギーが
宇宙の総エネルギーを
超えると
下呂にて思い直し
高山にさしかかり
超新星と膨張説を
馳せ始める
暗黒物質を
思い描いて
猪谷で降りると
日が暮れた

宇宙が広がっている
マゼラン星雲も
見えている
光が地球に届く前に
消滅する星の確率は
どれくらいだろう

人もまばらな車内で
バウリの定理を
暗証しながら
座席にもたれて
目を瞑る
振動によって
質量を確認している
ただ
目に浮かぶのは
地下一千メートル
五万トンの純水
夢見るは
その中で
揺らめいている



自由詩 PMT Copyright ねなぎ 2003-11-05 06:47:36
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