不等号記号 など四篇
クナリ

<カレンダ・メッセージ>
十一か月前に
落書きしたのは
十二月のカレンダの裏へ

何と書いたか
思い出せずに
痛痒の中で
きみと過ごす一年の終わり。









<しおり>
僕が本を好きだということは僕の周囲にはよく知れ渡っていたので、色んな人が色んな本を勧めてくれた。
それがあまりに頻繁なので、どの本をどの人が勧めてくれたのかを失念してしまうことが増えた。
そこで、一冊につき一枚しおりを用意して、そこへ勧めてくれた人の名前を書くようにした。
これが非常にうまくいき、お礼を言うのがずいぶん楽になった。
本を読み終えた後のしおりは、机の引き出しの中の一角にスペースを設けて、そこへ一枚ずつ積んでいった。
ある年、何の気なしにしおりの束をつまみ上げ、ぱらぱらとめくって名前を見ていった。
その半ばで、同じ人の名前ばかりが固まって現れる箇所があった。
涙がこぼれたりはしなかったけど、制御しきれない感情が胸にあふれた。
こんな時に、どんな本を読めばいいのかはいまだに分からない。










<不等号記号>
憧れると
喜びより
ため息の数の方が
多くなるふしぎ。









<アナログ>
あれは私がイラストを描くのが楽しくなり始めて、一年ほどした頃。
絵を描くのが趣味の人達と、インターネット上で交流することが増えた。
特に仲良くなった同年代の二人とチャットなどしていると、三人とも自宅の電話にFAXがついていることが判明した。
うち二人は親元であり、電話があるのは居間である。
そして私に至っては、家族にイラストを描いていることを内緒にしていた。
であるというのに、FAXで絵を送り合おうということになってしまった。
二人から送られてきたエヴァンゲリオンのカヲル君の絵を家族に見られでもしたら、とんだ罰ゲームである。
ていうか三人ともスキャナ持っててHPに絵をアップもしてるのに、なんでFAXやねん。
突っ込み合っているうちにさっそく一枚目が送られてきた。
一人が飼っているという、黒猫のイラストだった。
それを皮切りに、三人はイラストを送り合った。
マンガのキャラだのゲームの主人公だのオリキャラだの。
当然私は親に即バレし、恥ずかしい思いをしたがその辺でもう開き直った。
アンタに来る絵のせいでインクがすぐ無くなる、よく母に怒られた。
そんなに絵をやり取りしたかったらPCからメールで送ればいいじゃないのと言われ、
「ですよねえ……ごもっともで、ぐうの音も出ませんのう……」
と思った。
FAXから出力されてくるコピー用紙は、いつも熱を持って温かかった。
冷え性なので、メールも温かければいいのにな、と時折思う。


自由詩 不等号記号 など四篇 Copyright クナリ 2014-07-19 10:21:51
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