漬物石を放り投げた小さな手
るるりら

何度、心から良い人になろうとしたか
ちゃんと話を聞こうとしたか解らないのに
カスだからかな スカスカに ぬけてしまう

重い漬物石のような思い おなさいころからの
もっとも親しい人たちから 順番に 失ってしまった
もっと話を聞けたろうに もっと大切に できたろうに
どんどん私を 重くする わかれ

とつぜん 祖母のつけてくれた漬物のことを思いだして、
《簡単糠漬け》なんてものを スーパーで買ってきた
懐かしい匂いがして、こねるほどに野菜は水分がぬけて
不思議な生き物たちと融合する クズやさいたち

そういえば婆ちゃんの糠床の石は 最初は ちいさかった
量が減ってくると すこし大きな石になった
最後に とても石が置かれて その石を わたしの小さい手で 
よいしょと どかすと どすんと大きな音がした

ナス も クズ も みんな おいしくなった
あの日のあの やさしい味と すこしだけ似ている今の私の糠床
この調子で いい塩梅になるほどに 涙もいつか許される気がして
だれにも届かない言葉で どうしようもなく ふやけている私に 沁みている
今日の私のこの心の深いところから あの日のちいさな手が  はえてくる


自由詩 漬物石を放り投げた小さな手 Copyright るるりら 2014-07-19 02:36:56
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