そろもん(骨董屋の話)
みつべえ

これは1618年にロバート・フラッドという名の錬金術師が発明した永久機関です。さしずめ「アルキメデスの螺旋」の応用といったところでしょうか。この螺旋の管が水車の力でまわると水は上方へ運ばれそこにある枡を満たします。それから、ほら、溢れた水は樋を伝って水車の上に落ちそれを動かすのです。そして巡りめぐって水車は螺旋の管をまわすのです。つまり水は上昇と落下を繰り返すのですから水槽の水量は減少することがなく、螺旋の管も水車も永久に運動するというわけであります。しかも水車はここについている挽き臼の動力まで供給するのですよ。燃料も労力もいりません。産業廃棄物もまったく出ません。すばらしい美術品です。え? そうです、いまはりっぱな美術品です。なにしろまったく役にたたないのですから。19世紀に入りまして「エネルギー保存則」とか「エントロピー増大の法則」が確立されたとたんに、これを含むすべての永久機関が止まってしまったのです。それまではちゃんと動いていたのにですよ。それ以後、西欧工業文明は、快適さ・便利さとひきかえに環境や生態系の破壊をつづけてきました。進歩とは一体何なのでしょうね。と、いうようなことを考えながらグラスを傾ける心やさしいひとときのために、お客さま、どうぞ、お買い上げくださいませ。って、長すぎていつものフォルムに収まりきらないぞ。たまには、いいか。


自由詩 そろもん(骨董屋の話) Copyright みつべえ 2005-01-24 21:34:36
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