君のダンスは鮮やかだから
智鶴

色味の無い世界に
たった一人だけ鮮やかに舞っている君
美しくはないよ
汚れていないだけだ
眺めているだけで鮮やかになれる気がするよ
ゆっくりと砂になっていくように
僕は足元から錆びていく

灰黒く劣化したビル群の中を
足早に通り過ぎる灰色の人
皆一様に襟を立てて口元まで隠しながら
手にした薄っぺらい箱に指を翳して
誰とも目を合わせない
その暗い穴のような目で
水銀色の画面を舐めるのに必死なんだ

俯き加減で歩いているのは
きっと
足元に潜む金色の蛇を恐れているんだろう
音も痛みも無いままに
咬まれれば砂になってしまうから

君は例えば
真っ赤な薔薇の様だったかもしれない
濁った沼に浮かぶ水仙の様だったかもしれない
冷たい雨に打たれて揺れる
優しい紫陽花の様だったかもしれない
灰が降り積る街並みの中で
何故そんなにも淑やかで

崩れ落ちるビルの轟音も
誰にも聞こえない慟哭も
全部、君の為に有るみたいだった

少しずつ少しずつ
僕も指先から泥の様に変わっていく
それが乾いてしまえば後は
この町と一緒だ、砂になって崩れてしまう

だからせめてそれまでは
僕の前に居て欲しいんだ
腐り始めた体には触れないで
僕に美しくないダンスを見せてよ

終わる頃には教えて
砂の山になってしまった僕にも


自由詩 君のダンスは鮮やかだから Copyright 智鶴 2014-07-15 00:23:48
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