ガラスの銃創
ホロウ・シカエルボク







「何故」と「どうして」が泳いでる部屋の中、一日はまたなに一つ進行せずに過ぎてゆく、仰向けに横たわった俺はまるで、生きながら土葬された哀れな亡骸のようだ、ソリッドなギターロックが鳴り響いている部屋の中、俺の細胞まで切り刻んではくれないかPJハーヴェイ、ロックンロールが流れている時、人はそこにはないものだけを耳にしている、そしてリストは全て終わった、サイレントは心中だけを増幅して振り回す、部屋の中に居ながらさながら深海のように全てのものに手が届かない、圧迫されて息苦しい、圧迫されて息苦しいんだ、一度叫び声を上げてしまったらもうお終いだ、そのことは理解しているさ、だからいつでも水際で堪えてきたんだ、こうして目を見開いてさ、正気を繋ぎ止めるためだけの部品を並べてきた、サイレント、事態は進展しない、俺は深海に突っ伏して新しい知らせを待っている、あの高揚した気持ちは本当のことだったのか、俺を恍惚とさせたあの興奮は…何もかも嘘だったような気がする、あんなに確かだったのに…リアルなんていつでも手に届くところにしかないんだ、時が過ぎてしまえば全てはあやふやなものになっちまう、そうしていつの間にか本当のことだったのかすら…振り子の揺れが激し過ぎる、例えようのない喜びと、胸がムカつくような苦しみが交互に身体を蝕んでいく、どちらから始まったのか?どちらかだけなら良かったのか?どんなことをすればそいつにケリをつけられる?瞬間を信じるしかない、瞬間にあがき、瞬間に怯え、瞬間に震えるしかない、瞬間に生まれ、瞬間に死ぬ無数の人生の繰り返しだ、記憶なんてすべてはまやかしさ、生き易くする為に整頓して並べたふりをしているだけさ、人生なんてまるで無意味な一日の繰り返しだって言いきることだって出来るんだ、誰にそれを否定出来る?どんなに素晴らしい勲章を胸元に張り付けていようとだ、すべての瞬間が栄光のような輝きを持っているわけじゃない、顔をしかめて詰まり気味の糞を無理矢理押し出しているときだってあるさ、あんただって、俺だってな…誰かをメッタクソに殺す夢を見ている瞬間だってあるだろう、人間だって生身だ、どんなモラルや規律を盛り込んで飲み込んで実践して見せたところで、愚かで艶めかしい野性を消し去ることなんて出来ない、俺にだってぶっ殺したい人間の一人や二人居るさ、生物としちゃそれが自然ってもんなんだ、俺は嘘はつかないぜ、ただ真実の話し方が少し違うだけなのさ、俺はすべてを同時に話そうとする、そうするのが一番自然だからさ、どれかひとつをピック・アップした時点で真実は嘘になる、どんなに綺麗に飾ってもそれは生花と同じさ、土から離れた、殺された花だ、たいていのやつらは真実のように飾られた嘘を語るのが好きだ、ピック・アップされたひとつだけを話すのが好きだ、俺はそんなものには興味は無い、土に根を張った、雨風にもがれそうな花のように描くのが好きだ、どんなものだってそうだ、どんなものだってそうだぜ、生モノとして語られなければどこにも繋がらないじゃないか、所詮は紙の上のものだ、ディスプレイに表示されるだけの代物だ、あんたはそう思うかもしれない、それならそれでいいさ、俺は誰にも何にも強制したりしない、ただ俺はそれを信じ、それを受け止め、瞬間の真実を生き、記録していくというだけの話なのさ、狂っても悟ってももがいても浄化されても、それはただその時のことに過ぎないんだ、すべてのものを無駄にしながら高速で回転していく時の中で、まるで深海に居るように魂が沈殿している、どんなものにも手が届かないような気がする、だからって大したことじゃないさ、おかしな扉に手をかけなければな、見失わなければ…もう一度歌ってくれ、もう一度掻き鳴らしてくれPJハーヴェイ、無数のガラスの破片を弾丸にして撃ち込むようなロックンロールを、サイレントが俺の喉笛を描き切ろうとしている、この水底が俺の動脈からの血液で染まってしまう前に―ディスクが回転し始める、いつか心を震わせたものはすべて嘘だった、だけど嘘じゃなかったという保証だって無い。






自由詩 ガラスの銃創 Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-07-12 00:40:27
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