ひとつ 降夜
木立 悟






花を照らす灯が消えて
風がひとしきり吹いたあと
花は土を
濡らすように照らし出す


幾何学の家
同心円の小さな灯り
地の風が雷雲を追い
やがて窓は静かになり
わずかな影をまたたかせる


夕暮れに臥す鏡
鼓動する林の隙間から
風が途切れ途切れに逃げてゆく
巨大な羽を冷やしきれずに


双つの白い径がかがやき
峰の銀河を消すほどまばゆい
夜は確かに在るはずなのに
音の軌跡ばかりが繰り返す


縛られていたものは放たれて
ほつれた行方を踏みしめる
足跡を目指し 冬は来て
刃先を刃先を刃先を歩む


応えながら
数千年の蒼に
応えながら
地にはばたく巨大な羽
けして けして
飛び立たぬ羽


灰と銀の柱の周りを
白と鉛の柱が廻る
金と緑の水たまりたち
見え隠れする柱の歩みを映す


夜を模した宝石が
触れようとする指を呑み
煮えたぎる血の音に沈みゆく
光のない原の片目へと
火と雪と雨は降りそそぐ
火と雪と雨は降りそそぐ
































自由詩 ひとつ 降夜 Copyright 木立 悟 2014-07-09 07:26:10
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