プール
凍月




秒針だけの静かな時計

飛び込もうとして
やっぱりやめる
仄かに光って揺らめく水面を
乱したくないと思って
つま先から
トポンと

辛くても生きる体温を
鎮めてくれる水の中
産まれる前の心地よさを
記憶にも無いのに連想する

息を吸うと
体は段々浮き始める
直線で区切られた
世界の天井が見える

それから
水面に自分の腹が
手が
足が
胸が
そして顔が
沈みきった時

息の出来ない事よりも
漠然だけど怖い不安が…

プールサイドにはいつの間にか
見知らぬ誰かが腰を掛けて
足をバシャバシャさせていた
水面を見ながら笑っている

笑いながら歌ってる

「どこで線を引こうと関係無いさ
水を切る事なんて出来ないのと同じ
目を開けたって見えるのは他人だけ
一度孤独に浸かるべきなのさ
一度溺れてみるべきなのさ
一度底まで
息を止めてゆっくりと
沈んでみるべきなのさ」


最後の方は聞こえなかった

光が踊るのが見えた
光が踊るのだけが見えた

僕が沈むのを
僕は見ていた





自由詩 プール Copyright 凍月 2014-07-05 22:02:56
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