スニーカー
yamadahifumi
例えば、風の向こう
丘の向こうに
何かがあると考えてみる
幸福というのはいつも
何かの向こう側にあって そして
不幸はいつもこちらがわにある
素敵なものはいつも
画面の中だけ
そして、僕達はいつも
置き去りにされている感じがする
だけど、この『時』の中で
僕達だけが
自分の人生に直に触れられないのは
何故なのだろうか?
僕達はいつも幸福になる事に焦っていて
そして、今あるものの大切さには
決して気づきはしない
これまでの歴史において
これほどまでに衣食住に事を欠かない世紀があっただろうか
人は夏を冷房の下、冬を暖房の下にいて
そして、テレビの中の事象に
真剣に怒っている
人は一体、何を望んでいるのだろうか?
…多分、ブッダの言ったように
貨幣の雨を降らせたとしても
人の欲望は鳴り止まないだろう
僕は
この世界の中にいて
ふいに、自分の手のひらを見つめる
そこには僕が生きた二十何年という無為の歳月が
皺となって刻まれている
僕はそうやって少しずつ老いていきながら
世界に一人取り残されていく
世界はいつも一つの完備された
再創造され続けてるシステムなので
彼らに古びていくものは要はない
人は今、自分がシステムの一部なのか
それとも古びていく一人の人間なのか
そのどちらかを意識しないし、考えはしない
今、僕がシンパシーを寄せるのは
足元に転がっている一つの石
この石一つを生み出すのに
この宇宙はどれほどの労苦と忍耐を必要としたのだろうか
…僕は、そんな事を思う
そして、そんな僕が雑踏を抜けても
行きたい所はどこにもない
世界はいつの間にか僕の中で凍結しており
そして、僕の心もいつの間にか腐っていた
それでも、僕の求めるものは
あの山の向こうにある
…僕はその事を知っている
それで、僕は歩き出す
お気に入りのぼろぼろに破れた
スニーカーを交互に揺らせて