
海の民である しるしに 婆ちゃんは からくり金庫を私にくれた
立方体をしたその金庫は、随所に黒光りのする鉄の補強がしてあり
なかなか重厚感がある。扉を開けると、その扉の先に また扉。
つぎつぎに扉を開くと、隙間ができきて その隙間に あわせて 別の板をずらすと
中に空洞が現われる秘密の からくり
【船箪笥】っていうのだよ
船が沈没しても浮く仕組みらしい。
荒波を乗り越えるための
精巧なからくりと 頑固なつくり、この金庫を 開けるには
弐十の錠前と、語りつがれた知識が必要だという
重厚な鉄の補強は 時代を経て さらに まがまがしく黒く光り
あたかも 大判小判が収納されていそうな 船箪笥
大判小判を満載しても この金庫は水に浮くのだと 婆ちゃんは云ってた
財産なんてなあ
とおに歴代の方々が 使い切ったことを 知ってるよ
もう この箱の中には
無垢な心しか 入っていないのだ
だから
すてき
きっと 無垢な心のはいった この箱を持つ私は
大海に放り出ても 浮くのだろう
雨降りがつづくと きまって私の心は 船を漕ぐ