ロバスト
opus

月が照っている夜更けに
酔った男と女
彼らは若い時、
夫婦だったが、
別れ、
お互いがお互いの家族を
作り、
まぁ、一般的に見て
幸せに暮らしている

彼らの若さは
喜びと悲しみ、
苦しみと楽しみを
毎日に呼び込んだ
若さ故の
衝動が生活の糧で
大半が幸福に満ちていた
しかし、
少しのズレが生活に生じた
それはホンの些細な、
大人の彼・彼女ならば、
少しの間、
じっとしていれば良い、
そのことがわかるのだが、
当時の彼らには到底わからぬ事

それが今の彼らにはわかる
彼らはあの時の傷を養う
あの時の夢を見る
あの時の匂いを嗅ぎ
未来を見る
そこで、
その未来に自分たちはもういない事を知る
あの時繋がれた手はもう
繋がれないことがわかる

会えてよかった、
でも、会わなければよかった、
と女が言う
ああ、
と男が言う

二人は
お互いを愛していた
それは今でもそう
ただ、
お互いにその愛は
もう駄目だという事が
わかっている

男は駅の改札で女を見送る
女はさよならと言う
男は頷く
女はズルいと言う
男は頷く

そこで二人は別れた
女は家路に着いた
女は帰ると夫に左手を重ねる
夫の顔が少し曇る
女は私を愛してくれて有難うという
女はもう絶対に離したくないという
夫はそっと妻を抱く

男は右手でタバコをふかす
昇って行く煙に目をやると
そこには綺麗な満月が
けっ、
と唾をはき、
タバコを携帯灰皿に捨てる
帰って、すぐに寝よう
明日からまた仕事が始まる





散文(批評随筆小説等) ロバスト Copyright opus 2014-06-30 14:35:04
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