まくらとおねしょ
竜門勇気

夏のある日
ガイドを雇って森の奥
腐ったヤモリでいっぱいの
毒ガス地帯でマスクを付けた

こっから先では息すんな
五分も持たねえ
肺が錆びるぜ
ガイドが篭った声で喚く

肉のすえた臭いと
二日酔いの頭痛が
マスクの内側で溶けてった

気持ちのいいことだけをさがして
こんなとこまで来ちまった
大きな荷物を背負った仲間が三人
なぜだか
子供の頃の話ばかりしてる

この奥さ
この湖を超えたら
あんたらが言ってたような場所に
たどり着けるはずだ
ガイドがリュックを降ろして帰ってった

湖は今まで見たことのない透明な水をたたえている
残念だけど飲むことも触れることも出来ないし
ほんとだったら近づくのだってよく考えてからにした方がいい
ここにいるのは
バンドが一組
ガイドのリュックから
軽油を取り出し発電機のエンジンを掛けた

三分位?
そんなに短くないよ
ゆっくりやろう
途中やめになったら?
時間はいくらでもあるよ
土にも灰にもなれない場所だけど

ギターがハウリングを始めた
「シールドのシールドはシールドしてる?」
「ギターにシールドなんてないよ、ただシールドしてるだけだから…」
いつもなら笑える冗談も少し固いまま飲み込めないでいる

ドラムがシンバルを叩いては首をひねる
「なんだか何かが飛沫スプラッシュ餌にし食ってるみたいだ」
「そうだね、どこまでも広い森だから」

もうそろそろ、やろう
いつもより歪んだ音を会話に挟んでいたベースがシンバルに負けないように叫んだ

巨大な音の塊がプラスティックの森を叩く
ガイドがトカゲか何かに驚いて銃をぶっぱなす音が聞こえた
ドラムがマスクをはずして、せーのーで!と叫んだ
僕もマスクを外して精一杯でかい声で
まくらとおねしょに関する歌をうたった


”まくらとおねしょはにたようなもん”

”なんであいつあんなことしてんだっておもってる”

”まくらもおねしょもおんなじばしょで”

”ずぶぬれになってわらってる”



自由詩 まくらとおねしょ Copyright 竜門勇気 2014-06-27 11:27:15
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