朝焼け売り
智鶴

水に映る夜はきっと
誰が見ても美しいものなのに、と
君は諦めたように溜息を吐いた
そうだね、と僕は顔を上げて
もうすぐ生まれ変わる街を
薄らぎの色に塗り替える

雨に濡れた街は絵具の様
灰色の雲の下、灰色の屋根が並んで
それを溶かして空に筆を走らせる
蒼が欲しいね
ぽつりと呟いた君の横顔に
ぽつりと蒼色の雨が落ちた

街が泣き出してしまったから
君は堅い色のカーテンを閉ざしてしまう
六月はずっと
街が泣いているみたいなの、灰色で
全てが古くなってしまったみたいに
珍しく口を開いた君はまだ、「    」 
そうだね
でもね
溶かした空に滲みだした朱色が
もうすぐ一面に飾り出す頃だよ
まるで繋いだ掌みたいに

鉄色のフェンスに腰掛けて
朱色に街を塗り替える
その度、街は少し震えて
思い出したように灯を灯し始める
朱い空に頬を染めて
もうすぐ夜だね
名残惜しそうに呟いた君の横顔に
そうだね
一つ溜息を吐く前に
夜空を温かく彩ろうか

夜が怖いなら手を繋ごう
朝が来るまで隣に居ようか
少しでも柔らかく眠りにつけたなら
朝焼けの匂いに誘われて目を覚ましたなら
そうしたら
真っ新なキッチンでビターの珈琲を啜りながら
一緒に朝を色付けようか

君の頬に薄らと
朝焼けの色が差し込んで

錆色のフェンスに腰掛けながら
今日も街に筆を走らせる
この街の、この夜の、この世界の
美しい色の全部、
僕等だけのものにしようか


自由詩 朝焼け売り Copyright 智鶴 2014-06-25 23:21:35
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