押し黙る床に吹く風は
ホロウ・シカエルボク






永く埋もれた時の中で
色褪せた血塗れの死体がひとつ息を吐く
その吐息に色をつけるとするなら
やはり釈然としない灰色に違いない
まるで幾日も眠ってないような目をして
荒れた心の奥に佇んだプレシャス
風の中に神様は
ただ気が利いているというそれだけの言葉を残した
もしもとても入りくんだ場所でわずかな空を見上げているなら
そんな贈り物は届くはずがないさ
かすれた声が酷く痛々しくて
時々堪らなく痛ましい気持ちになるけれど
許しておくれ、すべてのものが満たされるほど
小器用には生きてこれなかったんだ
穴ぼこだらけの掌には、こぼしてきたものの感触だけが
こぼしてきたものたちの微かな感触だけが
少しの間しか咲かない花のようにこびりついていた
あぁ、あれは驚くほどに沢山の陽炎だったのかもしれない
狂い出す気持ちばかりがいつも不思議と正直だったのは
どこかでそんな確信を手にしていたせいかもしれない
夕陽の色が金輪際会えない誰かの背中みたいな瞬間に
死に至る病の成れの果て、アドレスの無い場所で
魂がうねる音の中で、ねえ
理由の判らない哀しみばかりが溢れ出していたんだ、壊れ始めた鎮魂歌みたいに
酷くとっちらかってこんがらがってさ
そこら中でざわめいてる種類の分かれた虫たちみたいに
羽音によく似たリフレインは
膿んだ涙が落ちる音だったのかもしれない
取り繕っても拭いきれない気分だけが
きっとそんな風に生き残るのかもしれない
今日の太陽が死んでゆくけど
どうしてあげることも出来ないよ
今日の俺が腐り落ちて行くけど
さよならになるようなものは持ち合わせていないよ
みんなみんな鮮やかに過ぎる陽炎だったんだよ
みんなみんな鮮やかに過ぎる陽炎だったのさ
雨の降る季節を耐えて、揺らぐ温度を待っていたんだ、そうさ、いつだって未来とはそんな感じだった
判るかい、何もかもが終わった時だけ吹いてくる風があるよ
終わったものを運ぶためにそこに吹いてくるんだ
終わったものが居残ったテーブルは
綺麗に掃除されなくちゃいけないのさ
そんな風は決まって囁きのように吹いて
そうしてみんなそんなもののことは



すぐに
忘れてしまうだけなのさ





自由詩 押し黙る床に吹く風は Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-06-23 21:43:13
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