卵を届ける日
塩崎みあき

嵐の日に
卵を
ひとつ
手のひらに包んで
大切な
人たちがいる
場所へ

こんな嵐の日に
止めておけって
すれ違いの人が
わめいている

けれど

卵しか
持っていないから
はやく
これ
届けたいから

一番
危険な
橋を
渡ろうとしたとき
風が
あそこの人
みんな死んだよ
って
無表情で
ささやいた

でも
卵を届ける
しか
他の事で
なにも
役に立たないから
やっぱり
この橋
渡ろうと
思う

先に行った自動車が
無惨な鉄くずになっている

一歩前に出る
すさまじく
強い風が横から殴りつける

大切な人たちが
どんな死に方をしたのか
ぼんやり想像して
うっすら笑って
つまらないな
と思って
何かの感情が
こめかみのあたりに
対流する感覚が
疎ましい

着ていた衣服は
破れてしまい
皮膚が水のように波打つ

いっそ水であれば


卵が
すやすやと
安心しきっている
私はそれを確認して
また一歩前に
足を踏み出す


自由詩 卵を届ける日 Copyright 塩崎みあき 2014-06-20 20:17:15
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