小川 葉



古本屋で買ってきた
詩集の頁に
銀行の明細書が挟まっていた

お取引金額二千円
手数料百五円
お取引後残高十六円

そう記された明細書が
栞のように
詩集に挟まっていた

取扱日は平成二十三年六月
もう三年になる

銀行で
二千円おろした後
足りなくて
この詩集を売ったのだろう

あれから三年
この詩集を売った人は
今も生きているのかと
不安が脳裏をよぎる

栞のある頁には
「米を研ぐ」
という一編の詩

そのタイトルにより
ここに挟んだのは
無言の救いを求める
メッセージのような気にもなってきて
切なくなった

心配になり
妻にその古本の話をした
妻は黙って
銀行のキャッシュカードを
私に渡し
それっきりだった

栞の口座番号をよく見ると
それは私の口座だったのである
この詩集を売ったのは
妻だった

そういえばこの詩集
見おぼえがある

むかし本屋で買った詩集を
私はふたたび
古本屋で
買ってしまったようである

私は三年前の今頃を思い出す
家族を支えていた
妻の詩を
真実の生活の詩を
読んだ気がした

帰ってきたこの詩集

その詩集に
妻が栞を挟んでから
もう三年になる



自由詩Copyright 小川 葉 2014-06-18 01:28:21
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