サウダージ No.
アラガイs


喜びは誰に捧げるのだろう、肉付きのいい母親の頬は弾けていた。携帯の写真を覗いては閉じる。チョコレート色に焼けた力強い腕。ながれる汗は距離を忘れ、遥か故郷の土を抱きしめていた 。

できるだけ荷物は軽く…しかしポルトガル語のアナウンスが頻繁に途切れるのはなぜ?。巻き毛を束ねた5〜6才くらいの少女はキティちゃんをしっかり握りしめている。眠っているのか…母の腕にすがり、たまにその大きな瞳を開いてはわたしの顎髭に目をやった。
イヤホンを外し備え付けのヘッドフォンをあててみる。
**もう少しだよ。

17才を過ぎたばかりのM君の場合は哀し過ぎた。酒に酔っては暴れる父親を刺し殺した。彼は出所した二年目の夏に郷里の崖から身を投げてしまった 。仕事が決まり32才の誕生日を迎えたばかりだった。空き地が工場になれば就労者の声も巻き舌にかわる。郵便受けの下には名もない草花。命日は躊躇う。いまでも宛名のない手紙が投函されてくる。

母親が餓死したことを誰にも明かさなかったTさんを語る人はいない。生前のまま二年と半月わずかな母親の年金を受け取っていた。たまに居酒屋で見かけたTさんは陽気な爺さんで、口調はわるいが人一倍気を使うひとだった。結審を三日前にしてTさんは拘置所の便所で首を吊った。冬の踊場を浸る。朽ちた囲い。嘘つきは泥棒よりも軽いだろ?戸口の花束はいつまでも枯れていた。

2ビートにかわる。
寒さからか、また少し眠い。
忘れものはこのまま捨てればいいさ。
黄緑色の紙コップに残った珈琲を啜ると、茜色の日差しが上下に揺れてくる。開いた少女の瞳に大地が照り混んで、客の動きもあわただしくなれば、oi/***とリズムを刻む。サァにぎやかなお祭り騒ぎのはじまりだ。僕はいま故郷の裏側を目指して雲の中を飛んでいる 。







自由詩 サウダージ No. Copyright アラガイs 2014-06-11 18:19:44
notebook Home 戻る