ひとつ ひもとく
木立 悟




片方の指の半分が
いつまでもいつまでも濡れている
むらさきの
二重の光

そっと頁の上をおさえる
小さなけものの前足が
沼のような暗さを湛え
土を少しだけ歪めている



真新しいものの匂いが辺りに満ち
痛くとも 苦しくとも
そばに寄るものはない
その間も 街は大きくなってゆく

喰い散らされた宝石の原
忘れられた民の音楽
羽に羽を植えるもの
離れるたびに 光に焼かれて

欠けても欠けても降りてくる
重なり重なり 降り止まぬ
小さな渦の集まりの渦
濡れた葉の影を地に敷きつめる

添えられた指も羽の異名
やがて雨に緑に遠のく
岩と木々と砂の坂
指から指へ 灯をつなぐ坂



小さなけものは前足をよけ
頁のなかに消えてゆく
閉じた本は土に沈み
濡れ葉の沼になってゆく

空と宙と地と地下を
貫く巨大な縦の楕円が
全天の頂をあおぎ見ながら
むらさきの光を撒きつづけている





















自由詩 ひとつ ひもとく Copyright 木立 悟 2014-06-11 13:30:07
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