樹晶夜  【縦書Ver.】
ハァモニィベル

足跡を捨てながら
帰り途を急ぐ
その歩数と
掛け算するように
夜の密度が
濃くなっていく

粘度を増して
重く絡みつきはじめた
暗闇の
後ろ姿だけしか
もう見えない

姿の見えない
透き通った戦慄が
肌を
摺り抜けるたび

殺意のような汗が
背中で
微笑む

まるで憂鬱を
    笑うような速度で
それは 
   這う

やがて、
樹状にどこまでも分岐しながら・・・

もう
帰れない、と
知った
  何時でもない 世界に
  デジタル時計のようなビルが建ち並ぶ
一瞬の
この場所で

廻る世界に溶け込む痛み
マンデヴィルの蜂に
刺されたような・・・
樹晶の痛み
 が、
 シミュラクルに
拡がってゆく・・・

知らない音楽が流れ出す
真夜中に
腹を抱えて笑い
転げ
落ちた
濃いコーヒー

手がかりはビチョビチョ

音量は破裂し

黒い液体の一つの流れが
まるで獲物を狙うように
床の上を這っていく

まるで憂鬱を
笑うような速度で・・・

やがて、
樹状にどこまでも分岐しながら・・・

ウリエルの忠告を聴かず
偽りが揺れる波間で
肉欲に押し潰されながら
肌に喰い込んでいく「幸福」の声が
闇のどこかで繰返される

主と悪魔の戯れのような

樹状に拡がる世界の

枝のどこか一つに

不眠症のカナリヤがいて
ひとり
寂しく
 樹晶の詩を
 謌いつづける

朝が眠る部屋の中で







自由詩 樹晶夜  【縦書Ver.】 Copyright ハァモニィベル 2014-06-11 10:57:09
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