＜矛盾＞
あなたを殺してしまいたい
でも
幸せにもなってほしいよ。





＜矛盾なき矛盾＞
本当に大切なものが
なすすべもなく消え去った時
もう残りの人生が余生でしかないと思えた時
空虚さに支えられてしまうことがある
空虚さでなんとなく
満たされてしまうことがある

だけど
それは世の中にありふれた喪失で
誰もが味わう無情だから
同じような思いをしている人たちばかりで
この町は出来上がっているのだろうに
それでもなぜ
みんなみんな
こんなにも辛いのに
明日も一枚ずつのドアを開けて
歩き出すのだろう

何度
貶められ
あざ笑われ
裏切られ
踏みにじられ
彼らの吐いた反吐の中へ叩きつけられても

あの人たちのそういう姿を
ドアを開けて出て来る姿を
ドアの向こうへ帰る姿を
これまで見てきて
これからも見て行くから
人間を嫌いには
なれないのだろう

ああ、
あなたを殺してしまいたい
でも
幸せにもなってほしいよ。