町のお米屋さん
イナエ

もう二十年も昔になるだろうか
「政府の備蓄米が放出されているらしい」と
うわさが流れていたころ
「あんたの家のお米ぐらいはいつでも確保しておくからね」
そういった町の米屋さん

近くにスーパーが出来て
日常食品を自転車で買いに行くようになっても
お米は少々高くても仁義を守って
町の米屋さんから仕入れていた

 お米やさんに
 薬剤師の資格をもったお嫁さんが来て
 薬局も開いたころには
 朝 仕事に出かけるサラリーマンが
 栄養ドリンクを立ち飲みしていた
 お米屋さんは
 「薬局を開いて 店の売り上げも少しは良くなった」と
 喜んでいたのだが
 バス停近くにドラッグストアーが開店し…

お米屋さんの薬局はだんだん暗くなって
明るい店に足が向き
お米一キロ三十円の差が出来たころから 
三度に一度はスーパーで仕入れるようになって
それもやがて逆転し
次第に遠ざかっていった足

久し振りに来てみれば
冷たいシャッターに拒絶されてしまった


自由詩 町のお米屋さん Copyright イナエ 2014-06-04 09:37:43
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