私の要
夏美かをる
コーヒーカップを持ち上げただけで走る衝撃
要はこんな時にも陰で働いていたのか?
くしゃみでもしようものなら
まるで電気ショック
要は体中に回線を這わせて
あらゆる身体活動を統率していたのだ
「運ぶの手伝いましょうか?」
あの時―
近くの青年が声を掛けてくれたというのに…
遠慮か?いや見栄だ 虚栄心そのものだ
そんなくだらぬものが
私の躯体の要をいとも簡単に砕いてしまった
不安を帯びた瞳を差し向ける上の娘
無様な姿を無邪気にからかう下の娘
必死にすがり、護ってきた
この砦の中にあって
母と名付けられた揺るぎない要までは
今はまだ手放すわけにはいかないから
這いつくばるように
目玉焼きを作り、
「ほんとにママはおばあさんみたいだねぇ」
と無理に笑いを繕った瞬間
再び体中を駆け巡る容赦なき電流