私の要
夏美かをる

コーヒーカップを持ち上げただけで走る衝撃
要はこんな時にも陰で働いていたのか?

くしゃみでもしようものなら
まるで電気ショック
要は体中に回線を這わせて
あらゆる身体活動を統率していたのだ

「運ぶの手伝いましょうか?」
あの時―
近くの青年が声を掛けてくれたというのに…

遠慮か?いや見栄だ 虚栄心そのものだ
そんなくだらぬものが
私の躯体の要をいとも簡単に砕いてしまった

不安を帯びた瞳を差し向ける上の娘
無様な姿を無邪気にからかう下の娘
必死にすがり、護ってきた
この砦の中にあって
母と名付けられた揺るぎない要までは
今はまだ手放すわけにはいかないから

這いつくばるように
目玉焼きを作り、
「ほんとにママはおばあさんみたいだねぇ」
と無理に笑いを繕った瞬間
再び体中を駆け巡る容赦なき電流


自由詩 私の要 Copyright 夏美かをる 2014-05-25 14:06:43縦
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