五月の欠片
nonya



光と風の音楽隊の
ゆるやかな旋律が
コンクリートの迷路に
色の音符を落としていく

緑はさざめき
花はときめき
道はほくそえみ
人の睫毛はほほえむ





渋滞したジェットコースターは
緩やかに急勾配を下って
行列を巻き込んだまま
メリーゴーランドは回り続けた

フリーフォールがためらいがちに
黄金週間の裾を引っ張ると
見慣れた夕暮れを背に
観覧車が軋みながら翳った





ハナミズキは散って
ツツジは燃え盛る
まだ幼いアゲハのダンスを
窓辺の猫の目が追い駆ける

こちらにおいでと
そよぐ風の速度に
追いつけない自分がもどかしくて
温くなった炭酸水を飲み干した

いつも五月に置いていかれる
心地好さに埋もれてしまう
伏し目がちの不純物のような
まだまだ透き通ることができない私を

五月の風はお構いなく
夏に向かって吹き流す





南風の心地よい圧力が
シャツの胸を凹ませた
舗道に散らばった光の鋲を
しかめっ面で踏み潰した

僅かに夏の体臭を漂わせながら
控え目にスキップする五月と
スクランブル交差点の真ん中で
すれ違ったような気がした





今日一日を

空や
風や
光や
鳥や
花や
あなたや
わたしや

そんな言葉を使わずに
表わすことが出来たなら

わたしは詩の言葉をすべて
五月に預けて

初めて見たような顔をして
季節を眺めることができるのに





自由詩 五月の欠片 Copyright nonya 2014-05-18 09:51:43
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