自決
山部 佳

埃っぽい飛行場を飛び立ったら
もう、さいなら、ってな気持ちや
任務なんやからな
二階級特進の恩給が
後は、なんとかしてくれるやろ

しやけど
あの勲章どっさりつけた
偉そうなおっさんらはどうするんやろ?
勝ちゃあええで、そら
凱旋将軍様、てなもんや

けったいな中隊長がおってな
出撃する前に必ず歯を磨くんや
「身は常に清潔にしておかんといかん」、とか言うてな
洗濯もでけへんさかい、くっさいくっさい飛行服やのにな
油がのうて、飛ばされへんのが何機もあるのにな

わしらのとこはまだましや
けどな、陸さんらのとこは大変らしいで
兵隊から将軍さんまで亡霊みたいに
洞穴やらジャングルやら這いずり回っとる、っちゅう話や
ほんま、何やっとるんやわからへんわな

そんなん、内地のもんはだあれも知らへん
新聞やらラジオで言うのは、ええ話ばっかりやからな
知っとる奴は特高にやられて監獄行きや
知っとっても、そんなん言われへん
言うたら、だれぞがタレこんで監獄行きになるさかいな

おもろい奴がようけおったんや
家はたいがい貧乏な奴ばっかりやったさかい
よう話が合うたわ…おもろかったわ
みんな、おらんようになってもたけどな
わし、なんでこんな綺麗なとこにおるんやろな…

点滴で朦朧とした
伯父の話は、いつもここで終わり
不確かな眠りの浅瀬に揺蕩い始める
私は死に場所と死に時を、ぼんやりと思う
自分で決めるということを考える
清浄な空気に満たされた
綺麗な病室で


自由詩 自決 Copyright 山部 佳 2014-05-01 22:38:21
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