かあさんも受験生だった頃がある
そらの珊瑚

人はなんでもないような場面を
なぜか覚えているものだ

中学校からの帰り道
乾いたグラウンド
走者のあげる土埃
プールに浮かんだ白いはなびら
すでに樹の指先は新しい葉を生やして
吠えると知っていながら
吠えられればそのつど驚いてしまう
黒い大きな犬のむきだしの敵意
藤棚に群がる蜂の群れ
錆びた自転車から澄んだベルの音

記憶のなかで
無意識な編集をされ
膨大な英字のつらなりの
(読み解かれずに過ぎていく日常)
ところどころに
そこだけ
蛍光色のアンダーラインを
引いたように光る

燕にとって
張り巡らされた電線が
ひとときの止まり木であるように
そこへ戻って
翼を休めてみれば
風が英和辞典をめくっていく
冷ややかな
スチール製の勉強机につっぷしても
熱はどこからか勝手に湧いてきた
私以外の誰もが
受験というハードルを軽々と越えていくイメージ
そこがゴールではないと知ったのは
それからずっとあとのこと

娘よ
紙に印刷された志望校合格率60% C判定に
ため息ばかりつかないで
手持ちの単語で翻訳してみてごらん








自由詩 かあさんも受験生だった頃がある Copyright そらの珊瑚 2014-04-24 14:14:16
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