わたしに
ゆ　という文字を
教えてくれた人は
あたかもそれを
ひとふでがきのように
描いてみせるので
その曲線の美しさに
魅せられたわたしは
日暮れて
昏くなるまで
いくどもそれをなぞった

それまで
音でしかなかった世界の扉を
ゆ　は形を連れてノックする

かあさんが夕飯の支度を始めている
出来るまでの間
わたしは
角砂糖をひとつ
与えられていた

甘い　ゆ
苦い　ゆ

答案用紙の最初のますに書かれた　ゆ
わたしの名前の先頭にある　ゆ
ゆうだちは好きですか
ええ、それは角砂糖を
やさしくほどいてくれました

野辺のおくりで
ささやかれる　
さいごの　ゆ
それを発音する人のくちびるは
少しすぼまって
くちづけの形をトレースする　ゆ