夜の洞窟で
そらの珊瑚

左手首の動脈を
右手の指先でさぐり当てる
脈に触れれば
自然とそれを数えてしまう
まるで
生きていることを
確認するように
えいえんに似たそのリズムを

日が暮れて
血の匂いがする

獲物を抱えた幸運な男が
生きてふたたび帰り
家族に迎えられる
分け合って喰らう
肉の旨みを噛み締めながら
薪の炎のもとで
よろこびがあふれた
またある夜は
混沌の中で誕生した子の
まだほの温かく
湯気を立てている胎盤を
口に入れた時
洞窟には
詩が産まれたことだろう

コトバがまだなかった
遠い遠い昔

脈々とつながる
原初の詩の記憶を
今夜 さぐり寄せる
大きな赤い月の下で


自由詩 夜の洞窟で Copyright そらの珊瑚 2014-04-17 10:28:21
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