年輪
オダ カズヒコ




雪の降る場所に
ぼくの人生はあった
雷鳴の鳴るその下で
ぼくはその人に出会った
野っぱらに立つ
樫の木ように
悔いることなく
根を張った

恋しいと感じたのは
何時から何時までのことであったのか
結局自信の持てぬまま
その時空に身を潜め
生きてきたのであろうけど

もう通うことのない思い出を
訪ねることのない心は
やはり空っぽで
寂しいものだ
4月の空は
なんともきれいだが
通うことのない思い出に
心侘びしく
犬のようにうなだれてみたりする

甘い味噌の匂いのする
イノシシの肉を炊く
妻と子供の
たわいのない会話が
途切れ途切れに聞こえてくる
ぼくは中年になり
その年齢なりの罪悪感と
物足りなさを感じつつ
日々を過ごす

まるでミミズのように
酒に弱くなった
ウーロン茶を片手に
妻が頬杖をつき
酔ったぼくの顔を見つめる


いつからなの?

妻が何かをぼくから訊きたがっている
ぼくはさらに真っ赤になり
ミミズのように耳を塞いで
できればその問いに答えたくないと思っている

雪の降る場所に
ぼくの人生はあった
雷鳴の鳴るその下で
ぼくはその人に出会った
一番ぼくの体温に近い
微熱のその人と
雷鳴の鳴るその下で
キスをした


自由詩 年輪 Copyright オダ カズヒコ 2014-04-06 19:37:09
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