通過駅
イナエ
揺れる心地よさに
居眠りしていたわけではないが
通過してしまった駅があったという
ぼくを待っていた人に気付かず
遠ざかった町
乗車駅のアナウンスを
聞き落としたわけでもないが
急いで乗った急行列車
通過した駅に仕掛けられていた
いくつもの分かれ道
乗り合わせた人と時を過ごしたことを
悪かったと思いたくないが
遠く霞む豊かな山
岩に跳ねる谷の流れ
憧れだけを残して
過ぎ去ってしまった野の花
手を振る幼児にさえ気付かず
通り過ぎた窓の風景
降りることなど思いもしないで
見過ごした里の暮らし
採りに戻ることも
出来なかった数々の昆虫
追ってくる虹さえ振り切って
通過した数々の駅
過去作「蕊」より