光と、沈黙
まーつん

 ああ、
 いまいましい

 言葉を捨てようとして
 夕暮れ時の河原に立って
 何度も、何度も投げつけた

 波打つ水面に
 沈みゆく太陽に

 それでも、
 掌を広げてみると
 言葉はまだ、
 こびりついていた

 汗に滲む
 黒い線となって
 蛇のようにのたうつ

 ゛言葉 ゛

 それは実った
 胸の奥の庭に立つ
 一本の樹に

 その枝先から
 もいだ実を
 口元に運んで
 また一つ、噛み砕いていく
 思考という名の果肉を

 その甘美な味に
 酔った目で

 見上げれば
 鳥が空を切り裂いていく

 その
 迷いなき羽ばたき

 見下ろせば
 魚が水を掻き分けていく

 その
 脇目も振らぬ泳ぎ

 虫の食った果実を
 受け入れようとした私の胃が
 反駁し、痙攣を起こした

 飲み込みかけた理屈が
 未消化のまま喉元を逆流し
 悪臭を放つ反吐となって
 足元の地面に、飛び散りかけた

 なんて
 不自由な生き物だろう
 人間とは

 私たちには
 翼も、鰓もない

 唯、肥大した脳があるだけだ
 囚人の足首から延びる
 鎖の先につながれた
 鋼鉄の、重しのように

 あるいは、不格好な
 癌細胞のように

 この星の生態系
 そのピラミッドの頂点に立ちながら
 下々の生き物たちが
 当然のように分かっている事を
 人間だけが、知らない


 自分が
 何者であるのか、
 ということを


 人は言葉を使って
 出口のない迷路を造り出し
 自ら足を踏み入れた

 私たちが
 思いを巡らせるほどに
 迷宮は拡大していき
 終わりは益々、遠のいていく

 言葉を持たない者共は
 己という存在の意味について
 自殺する程悩むことはない

 なのに

 自らを知るために
 自らを殺し
 その足元を支える
 我が家さえをも
 壊そうとしている

 それが
 この星で一番賢く
 無知な生き物、人間

 私は
 今日も言葉を
 捨てることができずに
 自分が誰なのかを
 問い続けている



 夕暮れの河原で



 やがて、星が瞬き
 全てを教えてくれるだろう
 
 
 
 光と
 沈黙を以て




自由詩 光と、沈黙 Copyright まーつん 2014-03-07 12:30:18
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