屋上
きとり

ちっちゃい頃、自分だけの場所、


誰も知らない、独りになれる場所を探してた。


そして5歳ぐらいに一つだけ見つけた。


苔だらけの階段を上り、朽ちかけた材木にしがみつく。


子供の手には届かない梯子に、


無理やり手を伸ばして飛び移った。



誰もいない、知らない建物の屋上に、


紐を結わえて、色んなものを運びこんだ。


そこに上るのはいつも命がけの気分で、


その背中のあわ立つ感覚がたまらなくて何度も通った。


誰にも教えなかった。教えたところで皆が来れるはずがない。


自分だけだ、好き好んでこんなとこを登るのは。



何度も落ちてひどい怪我もした。


だけど小学校を卒業するまで何度も懲りずに登っていた。


そこからは通ってた小学校の校舎と校庭が見渡せた。


その景色もそこに通う理由の一つだったと思う。



校庭の遊具で遊ぶ子も、サッカーをしている子も、


こっちからは分かるのに、


自分がここにいるなんて誰にも分からない。


それがとても不思議な感じで、自分の世界とあっちの世界で、


何かに隔てられているような気がした。


その感覚を味わうのがおもしろかった。



小学校の卒業の日、泣いてる皆を見て笑い出すのをこらえていた。


自分でもひどいやつだと思った。


普段男みたいな女子、男まで泣いていた。


でも同じ中学に行くやつがほとんどなのに、


何に対して泣けばいいのだろう。


担任の先生は好きじゃなかったし、大好きな先生はもういなかった。



皆と帰った別れ道で、あの屋上に行くことにした。


何故か独りになりたくて。


制服のままよじ登った。もういくら汚したって


構わない。


屋上について、学校が目の下に広がったとき、


初めて泣きそうになった。


だってもうここに登ることはないから。


中学校に進む自分んはもうこの場所に


収まりきらないから。


今日この時で最後なんだ、


一度涙が零れると、もう後は溢れて止まらなかった。



あの忘れられたような屋上


足場代わりの材木は朽ちて倒れ、


壁に伝う梯子も剥がれ


真っ黒な階段で錆び果てた。


それを見たとき、


寂しくて泣きたいような、


けれどどこかでもう誰にも行けないことに、


ほっとしたのを覚えてる。


あの場所にはもう誰も行けやしない。


あの眺めを見るものはもういない。



自分だけの秘密


あの屋上にはそれが


おもちゃ箱のように詰め込んである。







散文(批評随筆小説等) 屋上 Copyright きとり 2005-01-17 04:06:36
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