電柱の下 1時間
山内緋呂子

画家が
夜に立っていたので
話しかけた

きっと
目はジャイプールを向き
首から下が
飾り立てた子蛙だったので

「まだ見ぬ恋人」とは
昔の恋人のことですよね?
と 聞きたかったが
シャガールの「誕生日」はお好きですか と聞いた
ついでに カカオ相場も聞いた

画家が
「帰りたい」
と 言うので
「お見受けしたところ、かの国の王子でらっしゃるので 明日私がお供します。
昨夜編んだ赤いパンツで 暖をおとりください」
と 言うと
「帰れない」
と 言う

黄緑のセータを脱いで 彼にかぶせた

電柱の下
彼はきっと かさ電灯を 月の光だと思っている
うしろに月は あるけれど


自由詩 電柱の下 1時間 Copyright 山内緋呂子 2003-11-03 00:36:38
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