みじかい慕情 五篇
クナリ

■あなたの書いた文章を■
あなたの書いた文章を
手紙のように読み返す
その中に私がいないことを
気配のひとつもないことを
ついつい何度も確かめて
それでもついつい
もう一度だけ。





■あきらめ方の方法論■
あなたに彼が侵入してから 
大して何も変わらないような顔をしているあなたが
それなのにまったくの別人になってしまっていて
あなたの声すら聞けなくなってしまった

あなたを僕の元に取り戻したくても
もういない人をどうしたら取り返せるのか
もうどこにもいないのに

誰かと混じって変質したら
それはもう違う人。





■布■
自分は布のような人間だと思っていました
汚れ破れても縫いつくろえば
ほとんど元通りになって また歩き出すような

自分が実は紙のような人間だと気づいたのは
あなたに出会ってからのことです
切り貼りをくり返して
いつの間にか
取り返しもつかないような 私の別物。





■抵抗■
私のとがった先端を丸くくるんで
私の濁った末端の底まで見通しているあなたに
私がしてあげられることなんてあるとは思えない

せいぜいもっととがったり
ひどく汚濁してみせて
驚かせるくらいのことしか
せめて。





■むこう側■
指一本触れられない人を
指一本触れられないまま
愛している。



自由詩 みじかい慕情 五篇 Copyright クナリ 2014-02-08 12:53:52
notebook Home