藤原絵理子


静けさに目ざめた朝
千本格子に寄って眺める
まろくぼやけた夕べの足跡
やはらかに雪肌が吸ひ込む
とほい魚売りの声

せめておぼろな冬の陽が
見まがふばかりに華やぐやう
乾ひたくちびるに紅をさす
うつろな瞳の白い少女
姫鏡台の鏡に映る

月さへも見へぬ雪もよに
振り向きもせず去っていった
闇にとけ込む君のインヴァネス
また逢へるねのひとことを
信じるだけの鏡花水月

君のまぼろし追ひかけて
橋のたもとに彩り添へる
小雪に霞む蛇の目傘
矢絣の臙脂をかもめが笑ふ
渡るがいいさとかもめが笑ふ

引き千切りたい躊躇ひを
噛んだくちびるに融ける綿雪
その冷たさが心をくじく
まだ振り向かずには渡れない
橋の向に愛ほしい影

春になれば渡れるかしら…
はだれ雪に暮れなずむ街
さざめきも秘やかに


自由詩Copyright 藤原絵理子 2014-02-05 22:44:33
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