夜響
クナリ
あの日の夜に
泣きながら名前を呼んで あてもなく背中を探したのは
泣きながらすがりついてでも 伝えなければならなかったから
帰る場所がどこなのかも もう分からなかったものだから
月と同じ大きさの水銀灯の下
空と同じ大きさの影の中
一番かっこうを付けたい あなたの前で
いつだって一番 かっこう悪いのが不思議
自分よりも大事な人に出会えたなら
始まるのはきっと良いことだと思ってた
怯えながら 浮かれたり
張りつめながら ほころんで
胸の叫びは 決して届かないことを願い
喜びながら 打ちのめされて
追い詰められることで 救われて
すべての正しさが矛盾して
矛盾しながら 正しくて
笑いながら 泣いて 笑って
泣きじゃくっては 笑って 泣いて
そうして最後にはいつも 泣いている
想いが正しく伝わったことなど
一度だってあったのだろうか
私の言葉の不完全さに
あなたはどれほど 気付いているでしょうか
あなたが誰かと二人きり
抱きしめ合う姿を思い浮かべ
幸せそうだなと満足して眠る
そして決まって 自分の慟哭で目が覚める
孤独そうな月の 無感情な光の中で
隣で眠っていた誰かが
心配そうに私を見ている
月と同じ大きさの水銀灯の下
空と同じ大きさの影の中
一生に一度の出会いなんてものが
手遅れだったら どうしたらいい
昔の話と 笑って済ませたくっても
必ず失敗しては 降り来る思い出に溺れてしまう
始まらなかった想いなのだから
終わることも永久に無いのだと
思い知らされては
思い知らされては
思い知らされては
途方に暮れる
忘れてしまって当たり前
変わってしまって当たり前
どんなにそう 言い聞かせても
忘れてしまって当たり前
変わってしまって当たり前
辛い時のあなたがいつも唱えてすがった
呪文のような法則を言い聞かせても
月と同じ大きさの水銀灯の下
空と同じ大きさの影の中
人に訊いたら誰もが それは
幻想なのだと 言うような
とりとめもない きれいごとのまま
きれいごとのまま けれど確かに
忘れない想いは 少なくともここには 今もある
変わらない心が 少なくとも私には 今もある
私は それを伝えたくって
あの夜は あなたを探してた
決して見付けられませんようにと
私なんかに決して見付かってはいけないと
心の芯から願いながら
いつまでもいつまでも 探していた
月と同じ大きさの水銀灯の下
空と同じ大きさの影の中
そして 汗混じりの涙とこだまの中で
今もあなたを ずっと呼び続けている
忘れも変わりもしない名前を
私も
忘れも変わりも
しないまま。