「時として、中絶のように」
宇野康平

それはまぎれもなく、悪夢であった。

置時計は3時を指していた。

接吻で女は孕んだ。接吻の相手は鏡に映った自
分自身だというのに。

本棚の中で一番高価な辞書で「妊娠」を調べる。

覚めぬ夢にもまれて心臓は胸から股を通るよう
にしてドロドロに溶けていく。

これはスプラッター映画を見過ぎた男の夢だ。
と残り少ない日記に綴る。

本棚の中で一番高価な辞書で「中絶」を調べる。

コツコツと秒針の音が振動する。八畳程の部屋
に時計四つは多過ぎるというもの。

明日の朝、y■hoo知恵袋で、自分で自分を妊娠
させた場合には中絶できるのかどうか質問しよ
う。と決めて、女は瞼を閉じた。

置時計は5時を指していた。


自由詩 「時として、中絶のように」 Copyright 宇野康平 2014-01-07 23:24:10
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