夜と冬
木立 悟





蒼がふるえ 灰になり
灰がふるえ 手のひらになり
折れた蝋燭の火を護っている


時を迂回しようとして出来ぬ径
水に照らされる灯のない径
暗がりをすぎる異なる影
黒が黒に描く銀の径


絶え間なく降る何も無さが
常に横たわるものに最も近いのが今なのだ
そうわかっていながら わかっていながらなお
川の行方を見つめざるを得ないまばたき


絵の具を奪われた絵描きの横を
雨は通りすぎてゆく
人家のひとつひとつがけだものとなり
空を見上げ 白を浴びる


雷雲の輪に指を挿し入れ
弦の奏者は目を閉じる
海岸に並ぶ廃墟を覆う羽
すべての輪郭を乱している


祈りに応えて
月は十になり
八は落ちて子供になり
ただ地の水を見つめつづける


しっかりと小さく
からくりは動いている
花の影の暗がりで
捨てられた神を拾った日


今を 今を と
指先は鳴く
使われることのない暦の裏に
降るものも こぼれるものも
しとしとと 
しとしとと刻まれてゆく

























自由詩 夜と冬 Copyright 木立 悟 2014-01-03 11:17:30
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