夏虫
ベンジャミン
ゆうべは、ほんとうに困ってしまいました
わたしがとぼとぼ流れ出して
それは我慢がききませんから
両の手に溜めてすすりました
はあ、と吐く白い息にも
わたしがいるようでしたが
それは、幻だと思いました
どこからともなく
夏虫が
枯れ葉色の羽音をたてて
乾いたわたしにすりよってきました
おまえ、夏虫というのは
わたしの勝手な言い名で
どの季節にもいるのだろ
わたしから何を吸い取ろうというのか
おまえにやるものがあるなら
くれてやろう
おまえはそうやって生きる
その小さいからだに
みあったみかえりを
胃に溜め込むのだろ
おまえやはり、夏へゆけ
おまえの命を奪うまい
枯れ葉色の羽音をつれてゆけ
わたしもこの痛みを
吸い尽くしたら
飛んでゆこう
おまえ、夏虫というのは
わたしがつけた名であることを忘れるな