水宇宙
岡部淳太郎

宇宙の深淵から
水がひとつぶ
滴り落ちる。 。 。
と、
いのちたちはいっせいに水際に集まり
それぞれに
祈りの言葉をつぶやく
遠い場所で起こった恩寵に
いのちの囁きは共振し
星の瞬きが波紋のように宇宙に広がってゆく

その身体に
その精神に
涙に似た水をたたえたいのちたち
普段は溢れることも
沁み出すことも ないのだが
何かのきっかけで
たったひとつぶの
仲間の落下で
彼等の湿った思いは
闇のすきまを埋めて
彼等自身が
ひとつぶずつの水であるかのように
隣のいのちに
遠くのいのちに
寄り添って 歌い始める

四十六億年の歌が
待っている
四十六億個の水の分子がいっせいに
滴り落ちる。 。 。

と、

四十六億年の間に渡って
地上に雨が降り注ぎ
宇宙では
四十六億年ぶりに
川が氾濫を止め
清らかに流れ始める

信じられないかもしれないが
宇宙は水で出来ている
宇宙の中心に
たったひとつの水瓶があり
宇宙の各所で
ひたすら
大きくて小さな 物語を
待ちつづけているいのちたちは
巨大な水の一群となって
そこに向かって
滴り落ちる。 。 。
ために
その身を固く引きしめている

宇宙は水で出来ている
信じなくても良いのだが
宇宙の中を
ただひとつであり無限の種類である水が
循環している
そして宇宙の
あちらで
こちらで
ひとつぶずつの水がいっせいに
滴り落ちる。 。 。

と、

いのちたちは水際に佇んで
その事実を歴史に書き加える
これまでにも
何度となく
そのようにして水は
滴り落ち。 。 。

きた の だが

われらの喉を潤す
たったひとつぶの水
そのひとつぶが
祈りとともに
願いとともに
やがて大きな 川の流れとなる
ひとつぶから始まる
宇宙の
水の奔流
宇宙の各所で
いのちたちは目醒める
自らが巨大な水の一群となることを目指して
それぞれに滴り、
落ちる。 。 。 。 。 。
またひとつの
星の
誕生 あるいは死
私は泣いている
全宇宙の
水のいのちのために


自由詩 水宇宙 Copyright 岡部淳太郎 2005-01-13 19:15:47
notebook Home 戻る