からっぽ
寒雪

気まぐれを起こして
本棚を眺めていた
とある晴れの日
辞書のそばに
転がっている言葉
揺り起こしてみると
眠りから覚めた言葉は
おれに向かって
悲しそうにつぶやく


自分は
辞書に入りたかった
それを目指して
生まれた時から
日々人の口から
堰を切って漏れ出すよう
雨の日も風の日も
努力を怠らなかったつもりだ
だが
広辞苑はあんなに分厚くて
たくさんの仲間が
寝泊まり出来るほどの
収容能力を持っていながら
自分を辞書から
追い出した
どれだけ繰り返し
挑んでもはじき返された
自分は
少し途方に暮れているんだ
この先どうすればいいものか


俺は話を聞いて
笑いをかみ殺して
教えてやった
心配すんな
どうせそのうち辞書から
たくさんの言葉が
お前と同じように
こぼれ落ちて
みんないなくなるだけ
言葉なんて
もっともらしく使ってるけど
使用主がからっぽなのに
言葉だけ意味を持つなんて
馬鹿らしい発想なのさ
おまえらの中身に
意味なんてないのさ


おれの言葉を
聞いた言葉は
体を震わせながら
なにか言ってるが
もうわからない
おまえ
なんて意味の言葉だっけか?


自由詩 からっぽ Copyright 寒雪 2013-12-30 08:00:11
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