春日線香

枕の下に包丁を入れて眠るとよい
もしも悪夢を見たのなら
その時はすかりすかりと捌いてしまって
うすい刺し身のようにするとよい
油まみれの水たまりのように光るそれを
やってきた男は食べるだろう
用意されたものは残さず食べるというのが
昔からの獏の流儀であって
それは悪夢であればあるほどうまいのだ
にがくて冷たい夢を腹いっぱい食べさせてやれば
男は涙を流して喜ぶだろう
目を細めておまえに愛を囁くだろう
そうしたらもうしめたもの
いつか動けないほど肥えたそいつを
おまえは頭からぺろりとたいらげてやる
悲鳴も漏らさない海の底に沈めてやる
その日のために
おまえはもっともっと用心せねばならない
こうしてわたしが言い聞かせるのも
おまえの幸せな将来のためなのだよ


自由詩Copyright 春日線香 2013-12-28 21:11:57
notebook Home 戻る