マウンドにて
まーつん

  ストライクが入らない
  言葉の投げ方を、忘れたから

  キャッチャーを
  キリキリ舞いさせながら
  交代を告げる声を、待ち望む

  変化球に入れ込みすぎて
  指の関節がイカれたらしい
  ボールの縫い目から滲み出る
  ひねくれた心の膿と、その臭い

  バッターが目を擦る
  俺の姿が掠れていく
  だって、嘘ばかり投げてきたから
  実態が浮かび上がらない

  誰にも
  本当の自分が伝わらないから
  どんどん孤独になっていく

  マウンドの上の透明人間
  観客は総立ちで息をのむ

  人が一人、霞のように
  掻き消えたのだから

  客席に立つ少年の
  手元から滑り落ちたドリンクが
  足元に飛び散った、その瞬間

  野球場だった場所は
  野っ原に還り、人々は皆
  そこになびく芝草になった

  俺の魂は
  風に運ばれた
  一本の緑となり

  彼らのどよめきを
  見下ろしていた


  他人事のように








  (2013.12.28)



自由詩 マウンドにて Copyright まーつん 2013-12-28 13:08:31
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