結晶
大覚アキラ

風はカミソリのように
おれの耳を切り落とそうとして
電信柱の陰から狙っているらしい
くれてやる
くれてやるよ耳ぐらい

おれは幽霊だ
失くしたものが何だったのか
それさえ忘れちまって
途方に暮れて冬の街をほっつき歩く
情けない幽霊だ


窓が真っ白に結露して
クソ寒くって目が覚めた
昨日の真夜中に
裏通りで買った女の太腿に
薔薇を咥えた髑髏の刺青が
あったのかなかったのか
そんな記憶
小便と一緒にトイレに流したよ

一晩中おれの頭の中で流れていた曲は
今朝起きたら
薄紫色の結晶になって枕にへばりついていた
どうやら涙と一緒に流れ出ちまったみたいだ
そのキレイな結晶を
ちょっぴり舐めてみたよ
そしたらまた
あの曲が聴こえてきた

ポケットからセブンスター取り出して
ゆっくりと火をつける
この世で最後の一本みたいに
慎重に
慎重に

この曲
アンタにも
聴こえるかい


自由詩 結晶 Copyright 大覚アキラ 2005-01-13 15:11:01
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