結晶
大覚アキラ
風はカミソリのように
おれの耳を切り落とそうとして
電信柱の陰から狙っているらしい
くれてやる
くれてやるよ耳ぐらい
おれは幽霊だ
失くしたものが何だったのか
それさえ忘れちまって
途方に暮れて冬の街をほっつき歩く
情けない幽霊だ
朝
窓が真っ白に結露して
クソ寒くって目が覚めた
昨日の真夜中に
裏通りで買った女の太腿に
薔薇を咥えた髑髏の刺青が
あったのかなかったのか
そんな記憶
小便と一緒にトイレに流したよ
一晩中おれの頭の中で流れていた曲は
今朝起きたら
薄紫色の結晶になって枕にへばりついていた
どうやら涙と一緒に流れ出ちまったみたいだ
そのキレイな結晶を
ちょっぴり舐めてみたよ
そしたらまた
あの曲が聴こえてきた
ポケットからセブンスター取り出して
ゆっくりと火をつける
この世で最後の一本みたいに
慎重に
慎重に
この曲
アンタにも
聴こえるかい