シオマネキ
ただのみきや

色硝子の目玉をガリガリかじる
虫食いの肉体をベリベリ剥がす
おれはおれを一本の死に花として石の器に生けてみる
瞬間凍結された踊る舌先の焔として
勝ち目のない戦いに身を投じる高揚感で
己の文字数を数えることもなく奇襲するのだ
行のあわい その無から無量を音速で飛行する
女神が人工授精した爆弾の胎動に酔いしれて
紅い花と記し世界を青く染める者たちよ
老練な文明のチェス盤に打ち寄せる馬鹿笑いの怒涛を前に
狂うこともできない無垢な魂たちよ
己が恐れを逆手にとれ
道化のように狂気を纏え
絶妙なるアンバランス
盲目のビショップよ隻腕のナイトよ
貧しき兵卒よ突端までくぐり抜け女王の力と栄光を手に入れよ
シオマネキ詩ヲマネケ
シオマネキ死ヲマネケ
武装解除するな剝き身になるな蟹よ蟹
誰かの頭の中の冷たい食卓で侍るくらいなら
残ったハサミでちょん切ってやれ
主語も述語も切れ切れに
しょっぱい水飴を捏ね回すのは
潮だまりでふやけている連中に任せておけばいい
はらわたに聖なる毒を持つ者たちよ叫べ
「おれを喰うなら覚悟しろ! 」
完結された一行と成り切るまで生き抜いて
千も二千も墓標を残せ
そして遥かな星のように音もなく燃え尽きろ
爆ぜよ爆ぜよ降り注げ言葉の素数よ
世界が一編の詩として完成されるまで
無数のいのちが泡のように弾けて消えて逝く
蟹よ蟹蟹めでたき錯乱よ
泡を吹いては踊れ踊れ
底の浅い水溜りですら遥かな空を映すのだ
薄っぺらな文字の連なりに宇宙の深淵を覗かせて
泡を吹かせてやるがいい
脳界を巡る青い焔の伝書鳩は終焉まで飛び続ける
感染発語の蝗の群れを嵐のように引き連れて
蟹よ ドン・キホーテよ
崩れかけたルークよ縦横無尽に舵を切れ
本当は裸になりたかった悲しき王よ
守られて逃げるばかりだったチェス盤の王よ
冠を捨てハサミを振り上げよ
己が定型を真っ二つに断裁せよ
輝く眩い大海原を前に
打ち寄せる衝撃を前に
赤ん坊のように対峙せよ
来るぞ来るぞ来るぞ来るぞ
シオマネキ詩ヲマネケ
シオマネキ死ヲマネケ


      《シオマネキ:2013年12月20日》






自由詩 シオマネキ Copyright ただのみきや 2013-12-20 23:16:52
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