まーつん

夢には
二種類あるみたいだ

現実から
逃げるための夢と
現実を、変えていく夢

僕は、
炬燵の中で微睡む
飼い猫のクロと一緒に

彼女はもう
十年以上も前に
亡くなったのだけれど

その思い出は、まだ
記憶の中に生きていて
僕は時折、彼女の亡霊と共に
一日を楽しく、切なく過ごすのだ

痩せた黒い四肢
足の先は白い毛並みで
喉元から腹にかけても
雪のように明るい帯が流れる

そして、琥珀色の瞳を
薄暗い廊下や、押し入れの影に輝かせて
僕の方を物問いたげに見つめてくる

生涯、異性を知らずに終わった、
箱入り娘の甘い泣き声で
静寂に飽きた、僕の耳朶を震わせるのだ

炬燵の中に潜り込めば
僕の懐に潜り込み
柔らかい頭を、親しみを込めて
僕の顎先にぶつけてくる

これも また夢

愛しい者は
永遠に傍に居てくれる、という
叶う筈のない 三つめの夢

誰もが、年を取り、
そして ある日、
時間切れになる、と
分かっている筈なのに


僕は
窓を開け放ち、
新しい風を入れる

彼女は
ひらめく影となって
窓の桟を越えて、
野に駆けていった

そして 一本の
広葉樹の周りを
跳ね回っている

あの根本に
彼女の亡骸が
埋められているのだ

我が家の
小さな裏庭に
花が笑っている
蝶が舞っている

寝間着姿のまま
扉を開けて、表に出ると
芝草が、裸足を擽り
真っ白な空が、誘いかけてくる


望む未来を
描くがいい



命あるうちに、と




(2013.12.17)


自由詩Copyright まーつん 2013-12-17 15:06:07
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