辛い記憶
クナリ

灰色の草原にぽつりと置かれた
恐ろしくて触れることさえできない
黒黒とした檻
その中に私

外に広がる世界を見る
色のない草
音のない風
しらじらとした地平線
憧れのない自由

空にカラスが飛んでいる
けれどおかしい
あれはおかしい
羽ばたきもせず
風に乗っているでもなく
ただ端から端へ
無生命 無生命
それを知らしめるための鳥の形
檻の外への
渇望すら許さない
夢想すら余地がない

それでもあのカラス
せめてこの手で捕まえてみようじゃないか
土を掘って地下から逃れようと
両手で必死で土を掻く
上半身をつんのめらせて
下半身をふんばって
いつかすっかり全身を穴の中へ陥らせて
その先にあったのは
地の底を覆うような鉄格子
穴は既に深く掘り過ぎて
もといた場所にさえ
もう戻れない

爪が割れ
指は裂け
体は磨り減った

触れたいものなんて
この中にはもう何も無い
外にもとうに何もない

どうしてこんなところへ
来たのだったか

後から飢えるくらいなら
こんな檻の中へ逃げ込まなければよかったのだ

檻の中へ逃げ込まなければ
この世界から色は失せなかったのだ

触れることすらできない鉄格子の中
私が私でなくなるくらいに逃げ落ちたここで

私でなくなった私しかいないここで
ここでなければどこでもいいくらいどこかへ行きたいままで

手が痛いんだよ
手が痛いんだ

手が?

もう自分のためにしか泣けない。




自由詩 辛い記憶 Copyright クナリ 2013-12-12 21:20:01
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