ひとつ うつわ
木立 悟
暗がりのなかの水
灯の無い窓に
階段は増えてゆく
樹に埋もれた塔の上部が
少しずつ空になってゆく
花を見つめすぎて
花になるもの
双つの入口
冷えた川を着て融けてゆくもの
かつて見つめたかもしれないもの
いつまでも片目に在るかたち
やがて土を染め
空になるもの
葉に生まれたものが
葉に迷わぬまま花になり
森にもたれ
午後を斜めに照らしている
径 ほどける径
激しく過ぎる明るさ
雷雲が雷雲を幾度も踏み越え
またひとつ空になってゆく
雨の轍が蒼くかがやき
崖と岩の街を示す
脂と炎をなぞるむらさき
水たまりの底の冠
水平線を染めては消える
行方の知れない音のひとつが
風のなかの声とともに
幽かなかがやきの器を満たす