ひとつ うつわ
木立 悟





暗がりのなかの水
灯の無い窓に
階段は増えてゆく
樹に埋もれた塔の上部が
少しずつ空になってゆく


花を見つめすぎて
花になるもの
双つの入口
冷えた川を着て融けてゆくもの


かつて見つめたかもしれないもの
いつまでも片目に在るかたち
やがて土を染め
空になるもの


葉に生まれたものが
葉に迷わぬまま花になり
森にもたれ
午後を斜めに照らしている


径 ほどける径
激しく過ぎる明るさ
雷雲が雷雲を幾度も踏み越え
またひとつ空になってゆく


雨の轍が蒼くかがやき
崖と岩の街を示す
脂と炎をなぞるむらさき
水たまりの底の冠


水平線を染めては消える
行方の知れない音のひとつが
風のなかの声とともに
幽かなかがやきの器を満たす
























自由詩 ひとつ うつわ Copyright 木立 悟 2013-12-11 02:05:40
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